合理性と遊び心の両立

合理性と遊び心の両立


経済性だけを追求するなら四角い箱型にして、世の中で最も流通している商品を組み合わせてつくるのが一番安上がり。
ですが人間そう簡単に割り切れるものではないことは、ファッションや料理を考えればわかりやすく、
それなら「衣・食・住」というくらいですから建築だって同じはずです。

敷地条件やプログラムごとに最適な(経済性だけではない)合理性を追求するのはもちろん、
「無駄かもしれないけどあると楽しいだろうな」という要素も上手に取り入れていけば、
一層愛着の湧く建物になってくれます。


瀬戸の住宅 の場合

瀬戸の住宅 の場合
「派手で面白い家に住みたい」という以外はほとんどお任せいただいた住宅です。

大体の家づくりは、何部屋ほしい、カウンターキッチンが良くて、お風呂は広い方が良い・・・というあたりからはじまるのですが、
まさか「派手で面白い」が出発点になるとは想像していませんでした 笑

いや、笑 なんて失礼な書き方をしてしまいましたが、
こういう考え方ができるのは、実はとても大切なことだと思っています。


お話を伺っていると
ご夫婦は瀬戸をはじめとした色々な作家さんの器を集められており、
地域のお祭りや旅行へ出かけた時など、機会をみてコレクションされてるそうです。
そんなお二人にとって、
もちろん部屋数等々の諸条件はあるけれど
それよりも
空間全体として、作家の器に感じるような、コンセプトのある家であって欲しい。
という事なのでした。


さて、では具体的には「派手で面白い」をどう読み解けていけば良いでしょうか。


派手といっても、
原色バリバリの色使いだったり、ゴテゴテの装飾だらけだったり、煌々と光り輝く家を望んでいるわけではありません。
どうしようかと迷った時は、
まずは敷地に行ってみて、周りの状況や風景から条件を探っていくことにしています。
(⇒ 1.敷地の「外」から考える もご覧ください)

この敷地は市街地中心部のはずれ
この敷地は市街地中心部のはずれ、南下がりの坂の途中にあって、
都市計画道路をつくるために
もともと建っていた建物を立ち退きしてもらったため、
周囲はぽっかりと空いていました。

坂の下まで300mほど。道沿いには何も遮るものがなく
くだりきった先には踏切があり、振り返ると敷地が良く見えます。

唯一接する隣地
さらに唯一接する隣地は
もともとはこの敷地と一体で売りに出ていた所を分割され
この敷地が購入されたことで残った部分で、
道路とは高低差があり、土地の形状も計画しにくい上に電気・水道・ガスの引込工事がされていない
(つまり購入した土地にもともとの引込配管がきています)
という事から、多分売れないだろうな・・・という土地になっています。

つまり、何を建てるにしても
周囲から孤立して建つために、とても目を引く建物になるだろうと推測できました。

 
 

街の目印、特徴になるような建物をランドマークといいます。
 

通常は山とか美術館などの公共建築、モニュメント、あるいは高層ビルのような大きな建物がランドマークになりますが、
この地域にとって、これから建つ住宅が、街の「ささやかなランドマーク」になること。
それが「派手」への1つの回答になるだろうと思いました。
ささやかなランドマーク  
 
もうひとつの「面白い」についてはどうでしょうか。
 
 
「面白い」には2つの意味がある、と考えています。
英語のユニークが近い感じです。
ユニークは辞書を見ると、唯一の、独特の、とあります。
大学の設計演習の講評会でも、先生たちから「これは面白いね」「なんか面白くないなあ」という批評が度々でるのですが
つまり、その場所だからこそ、その人たちだからこそ、の建築になっているかどうか。
という事なんですね。
敷地や周辺の特徴、求められる機能等を総合して、納得感のある建築になっていると
「面白い!」と自然に思えるのです。

もう1つは遊び心があるかどうか。
理屈だけでできた空間はどこか息苦しいもの。
思わずふふっとなるような、微笑ましい仕掛けがあると良いバランスに仕上がる気がしています。


さて、そこからこの敷地を改めて見てみると
よく目立つ、ということは、つまり人目にさらされる、という事だとわかってきます。
開放的な空間にできるが、丸見えになりやすい。
ランドマークにするのであれば、
塀を設けずとも建物そのものが、ある種の防御性を備えていてほしい。

そう思って、ふと「塔のような家」という言葉が思い浮かびました。

塔のような家

塔といっても、東山の給水塔や、灯台のような、ちょっとかわいい感じ。
ヤギタワーとかもイメージに近いかもな~と思っています。
(出来上がってから、ムーミンの家にも似てることに気づきました)

さらに、瀬戸には窯垣という、
塀に瀬戸物を埋め込んで装飾にする文化が残っているのですが
この窯垣へのオマージュとして、足元に瀬戸物を埋め込んであげると
可愛らしい建物になるだろうな、と直感的に思ったので、
この方向で設計を進めることに。
ランドマーク性と防御性を両立させる ランドマーク性と防御性を両立させる ランドマーク性と防御性を両立させる
機能的にはランドマーク性と防御性を両立させるカタチ。
遊び心としては、どこか絵本の世界のような雰囲気をまとってくれれば、と考えました。

瀬戸の住宅 瀬戸の住宅 瀬戸の住宅 瀬戸の住宅 瀬戸の住宅
瀬戸の住宅は、施工上の難易度やコストを抑える工夫や、
幾何学的なルールから生まれる吹抜け、遊具的な家具など
内部空間も遊び心と合理性の両立を考えて設計しているのですが
だいぶ長文になってしまったので、ひとまずここまで。

***

敷地の南にある横断歩道は小学生の通学路になっていて、
坂の下には駅があるため、坂を行き来する人も結構大勢。
そんな人たちの、記憶の中の風景になってくれればなと思いってます。


※冒頭の茶器は黄瀬戸の茶碗で、瀬戸物祭りで購入したもの。思い返せば平面形がにてるなあと思いました。
 この住宅を設計する2年前、買った当時はこんなカタチの住宅を瀬戸で設計することになるとは思いもしませんでした。

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