6月にTOTOギャラリー・間で開催中の、
末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち』を見に行ってきたので、
自分なりの感想を書いておきたいと思います。(2000字超えます。笑 長文です・・・!)

【1】
まず、昨今の建築を造形として語る事を避けるような風潮(?)の中にあって「かたち」という言葉がタイトルに入っている事、また膨大な思考の量を何とか分かりやすく伝えたいという熱意に、圧倒されつつとても共感しました。

展示内容としては、3階には環境解析を通して得たアイディアの種「SEED」が実作へと展開される様子を、4階にはさらにそれらを発展させつつアジアを見据えた開放系の建築へ向かう実践が紹介されています。(ギャラリー・間は3階と4階の2層の展示フロアで構成されています)

【2】
ところで、今年の春にギャラリー・間代表の筏さんのレクチャーを聞いた時に、「ギャラリー・間の展覧会は建築作品の展示ではなく、建築家自身もまだ理解し切れていない『何か』を伝える場だ」とおっしゃっていたことが記憶に残っていました。
そう思って会場を見返すと、
一見「SEED」から発展させた建築の在り方を展示しているように見えて、そこには別のメッセージも潜んでいるのでは?と思えてきます。
つまり、
最初は環境解析を用いた設計手法や、それにより出来上がる建築のあり方を提示しているように見えたのですが、
一巡してみて実は逆で、
むしろもっと基本的な態度として、
環境解析を素養として身につけた人類(設計者)の自由さを見せてくれたのではないか。と思い至ったのです。

【3】
会場で最初に示されるSEEDは“かたちの原型”であるとされていますが、
これを「SEEDが直接的に建築の“かたち”になる」のではなく
「ある“かたち”が“自然を受け入れ得るかどうか”を判断する基礎的な知見としてSEEDを集めておく」と考えてみると、
解析結果から設計をスタートするのではなく、
あくまで「最初の一歩は意匠である。(ただしその判断の背景には環境解析で得た知見が備わっている)」と言っているように見えてきました。

ラボの成果を、最終的に立ち現れる建築の字義通りプロトタイプだと取るか、
意匠・構造を含めた総合的な意思決定における(実践的な)予備知識と捉えるかで、展覧会の見え方は大きく変わりそうですが、
僕個人としては後者の方が末光さん達の作品に対して抱く感覚に近い気がしています。

【4】
例えば、
『清里のグラスハウス』は解析より先に斜面に埋もれる温室のような空間のイメージがあって、
そこへの熱的な負荷に対して、ラボでの知見がこのアイディアで「いける」という判断を後押ししているように思えるし、
『二重屋根の家』では、
熱環境のコントロールだけで言えば他にも色々手段がありそうなところを、
簾のような屋根の下に暮らす、という美学的な判断があってこその構成になっているように感じます。

【5】
また、もう一つ個人的に楽しみにしていたのが三分一博志さんとの違いでした。
(三分一展は以前赴任していた大学でギャラリー・間の巡回展を開催させていただきました。)
三分一さんも、手法こそ違えど環境解析を作品に落とし込む設計をされます。
SUEP.展をみて、
三分一さんがそれを建築の象徴性のようなものに結びつけているのに比べて、
末光さん達は環境をもっと「当たり前のもの」として捉えいてるのではないかと感じました。
ハレとケの違いとでも言えるでしょうか。
末光さん達にとって環境解析は設計する上での備えておくべき素養の一部であり、
究極的には、美しい/美しくない、楽しい/楽しくないと同じくらい直感的に判断できるようになるべきだという事なのかなと・・・

【6】
そう思って改めて見ると、色々なSEED(自然の受け入れ方)が展示されていますが
それらは体系化されているわけではないことに気づきます。
むしろ、
もっとSEEDは無数にあって展示はその一部に過ぎない、
SEEDは線型的に実際の建築になるのではなくて、建築のアイディアとSEEDの間にはジャンプがある、
と受け取る方が正しいように感じてきます。

【7】
そうなると、
個々の手法よりも、
「環境を視る目」を手に入れた末光さんがどんな建築の自由を獲得したのか、という展覧会に見えてきて、
「環境を表現の武器にする」という小さい理解を超えて、
そうか建築の可能性はまだまだたくさんあるんだな~
と一人で妙に納得して帰路につきました。

【8】
長くなってしまいましたが、
まとめれば、
めちゃくちゃデキル先輩に「環境カンタンだよ、みんなもできるからやってみなよ。考え方広がるよ。」と言われているような展覧会です。
身近で親しくも遠い存在、みたいなこの感じ。
なんだか悔しくなりました 笑

それだけ、凄く大変な努力をポップに分かりやすく説明してくれて、後輩に希望を持たせてくれているのだと思います。

【おわりに】
ギャラリー・間の展覧会では必ず通称「展覧会本」と呼ばれる、展示に合わせた書籍が刊行されるのですが、そちらはまだ読んでいないので、読むとまた考えも変わるかもしれません。
それでもまずは最初に感じたことをと思い、まとめてみました。

会期は9月11日までという事で、十分な期間開催されています。
要予約ですが、無料。
機会を見てもう一度行ってみたいと思います。